昨今、注目されている行政サービスのデジタル化は、住民の生活の利便性や職員の生産性向上に大きく貢献しています。
IT先進国と呼ばれるデンマークでは、様々な場面でデジタル化が推進され、多くの取り組みが行われているのを知っているでしょうか。
今回の記事では、デンマークのITに関する実情、IT先進国と評される上でしばし話題にのぼる事例や、それらの普及が進んだ理由についてご紹介します。
デンマークのIT実情
福祉国家として知られているデンマークでは、教育費や出産費、医療費の無料保証や充実した高齢者サービスなど、高水準の社会福祉制度が整っています。
国民の満足度も非常に高く、世界から見ても福祉国家モデルとして重要な国だと言えます。
2022年6月15日に発表されたIMD世界競争力ランキング2022では、デンマークが北欧初となる首位を獲得しました。
これは、他の各国で優先順位が下がりがちな環境対策や、財政の強化に率先して力を注いだことが大きいとされています。
その他にも、世界でデジタル化が最も進んでいる国として知られています。
2020年に発表された電子政府ランキングでは1位を獲得し、高齢者のネット使用率も約8割にのぼるなど、国民の多くがデジタルを使いこなしています。
新型コロナウィルスによるパンデミックへの対応にもこの電子政府体制が大きく貢献し、国民全員がタイムリーに情報を得られるといった大きなメリットがありました。
デンマークがIT先進国と呼ばれる例
IT先進国と呼ばれるデンマークですが、一体どんな取り組みが行われているのでしょうか?
電子ID利用の義務化
デンマークでは行政サービスのデジタル化の基盤として、電子IDの利用を義務化しています。
日本のマイナンバーにあたる「CPR」は国民全員が持っており、これに電子IDの「NemID」を組み合わせることで、デジタル化のための基盤整備が完了しています。
行政機関と市民との間の情報交換は電子私書箱で行うことができ、給付や納付、公共サービスの支払いはオンラインで済みます。
さらに詳しく
個人番号を伝えるだけで、各行政機関が過去の履歴を確認できるため、書類の記入や経緯の説明が省けるといったメリットもあります。
こういった基盤作りにより、行政手続きに要する時間がデジタル化以前と比べ平均1~2日ほど短縮され、そのコストも2分の1ほど削減できています。
オンラインによる新型コロナ検査の予約
新型コロナウィルス対策にも、デジタル先進国の力が存分に発揮されています。
デンマークでは、オンラインで新型コロナ検査が予約できるシステムが構築されていて、画面上で希望の日時と検査所を選択するだけで簡単に予約ができるようになっています。
予約変更も可能で、検査結果もオンラインですぐに確認ができます。
このシステムによって、症状がない人も気軽に検査を受けられるようになりました。
また、新型コロナウィルスの予防接種もオンライン上で完結できます。
対象者には電子私書箱から連絡が入るようになっており、指定の予約画面から予防接種の予約が可能です。
さらに、デンマークで浸透している電子カルテにより、全国民の医療情報が把握できます。
よって、地域ごとの感染者数や患者の状態、感染の傾向などがタイムリーに情報提供できるため、感染の抑制へとつながっているようです。
便利でシンプル、無駄を省くキャッシュレスな暮らし
デンマークでは、現金を使用しない支払い方法が広く用いられています。
店舗や地下鉄の自動券売機、シェア自転車など多くの場面でカード決済が普及しており、日常生活で現金を使わないキャッシュレス化が進んでいます。
ATMを利用する人も減っているとされ、これはどの銀行にもネットバンク機能があり、オンライン上で振り込みや確認ができるため、わざわざATMへ足を運ぶ必要がないことが理由として大きいようです。
また、デンマークでのみ使える国内専用のデビットカード「Dankort」が買い物に用いられることもあります。
「Dankort」は加盟店に課せられる手数料が比較的安く抑えられているため、対応店舗も多く、デビットカードの利用者も増えていると言います。
カードレス社会への移行
デンマークでは「キャッシュレス」の他に「ペーパーレス」「スタッフレス」といったサービスも普及しています。
ほぼ全ての事務手続きをオンライン上で完結させることができ、情報伝達も専用アプリを通して行われます。
さらに、最近では「カードレス」も普及しています。
携帯電話と銀行口座を紐づけた「Mobile Pay」というアプリの登場により、デンマークの人々の現金を持たない生活は加速していきました。
このアプリは、携帯電話の番号を入力するだけで簡単に金銭のやり取りができるようになるものです。
アプリを通じた取り引きは即時決済されてアプリ内に記録が残り、同時に口座へも自動的に記録されます。
ココがポイント
現在では「Mobile Pay」の対応店舗も増え、ネットショップでも「Mobile Pay」での支払いが可能になっています。
また、デンマークでは運転免許証や住民の身分証明書もデジタル化され始めています。
今のところデジタル利用の義務化はされていませんが、「カードレス社会」が実現する日もそう遠くはなさそうです。
なぜIT先進国になれたのか
デンマークがIT先進国と呼ばれるまでになったのは、どんなことが関係しているのでしょうか。
デンマークの人口
デンマークの人口は、日本の20分の1にも満たしません。
少ない人口で国の経済成長を促すためには、デジタル化を進めて人材を有効活用していくことが必要です。
人が関わらなくても済む業務はできるだけ機械に任せて、最低限の手続きで完了させることが、国民の生活の利便性向上には欠かせませんでした。
国の危機意識が高かったことと、国民からの合意や支持を得たことはデジタル化を加速させた要因の1つと言えます。
デジタル教育
デンマークでは、小学3年生から授業でパソコンやiPadを活用しています。
親と学校、生徒と学校の間の連絡はデジタルプラットフォームを用いて、デンマークオリジナルのデジタル素材を使って学習していきます。
デンマーク政府は、スムーズに生きていくためにツールの活用が必要不可欠と考えるため、子どもの頃からの積極的なデジタルの活用を進めています。
国民と政府間の信頼の構築
デジタル化には、銀行口座や医療情報などの個人情報が必要になります。
そのようなデータが安全に管理され、マーケティングなどのために不適切に利用されないことは、国民の信頼を得るうえでとても重要なポイントになります。
デンマーク政府は、データ管理のルールを定め、高い透明性を確保していることを国民に伝えていきました。
結果として、国民からデータ提供を得られる信頼関係ができあがり、デジタルへの抵抗を示す人が減ったと言えます。
使いやすさの追求
デジタルサービスが国民に浸透している背景には「国民の視点」に立って、行政システムの見直しが行われてきたことも関係しているでしょう。
デンマークでは、デジタルに抵抗を示す人が使いやすいシステムの構築と、情報へのアクセスのしやすさを課題に挙げて、必要な情報が得られやすい仕組み作りをしています。
こうした柔軟な見直しを行いながら、同時に法整備も進め、結果として満足度の高いサービスにつながったようです。
まとめ
今回は、デンマークでデジタル化が進む理由や、その取り組みについてご紹介しました。
デンマークがIT先進国と呼ばれる背景には、国民と政府の信頼関係を軸に、課題解決に取り組んできた歴史があります。
今もなお、日常生活の様々な場面でさらなるデジタル化が進められていることでしょう。
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