サーミ人という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
サーミ人とは、フィンランドやスウェーデンなどのスカンジナビア半島北部のラップランドに住む先住民族です。
2017年には、サーミ人の少女が差別や困難に立ち向かいながら生きる姿を描いた映画『サーミの血』が日本でも公開されました。
フィンランドをはじめとする北欧の文化や歴史を知るうえで、先住民族であるサーミ人への理解は欠かせません。
そこでこの記事では、サーミ人についてくわしく解説します!
サーミ人とはどんな民族?
(photograph by Erika Larsen)
サーミ人とは、北緯66度33分の北極線より北の北極圏(フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、ロシア北部)に住む先住民です。
サーミ人が住む地域はサーメランド、一般的にはラップランドと呼ばれています。
サーミ人の総人口は推定8万〜10万人ほどとされ、多くのサーミ人はノルウェーに住んでおり、フィンランドには約1万人のサーミ人が生活しているとされています。
さらに詳しく
太陽は母であり、風からトナカイ飼育を教わったという伝説から、サーミ人は自分たちのことを「太陽と風の民」と呼んでいます。
サーミ人は、トナカイと共に移動しながら住居を変え、狩猟やトナカイの遊牧を行ってきた民族です。何千年もの長い間遊牧民族として暮らしてきましたが、近年では定住して農業や漁業に従事したり、会社員として生計を立てたりしているサーミ人もいます。
サーミ人の言語はサーミ語ですが、サーミ語を母国語とする人は全体の3分の1程度。
ほとんどのサーミ人はフィンランド語、スウェーデン語、ロシア語、ノルウェー語などを話せます。
ノルウェーでは、4万人のサーミ人のうち、サーミ語を母語とするのは1万5000人ほどといわれています。
ノルウェー最北のフィンマルク県では、公共施設や道路標識に、ノルウェー語とサーミ語が併記されています。
サーミ人の歴史
サーミ人の歴史は約1万年前にさかのぼります。
サーミ人は、氷河期のあと、フェノスカンディア(スカンジナビア半島、コラ半島、カレリア、フィンランド)に移住してきた人々の子孫です。
サーミ人は苦難に満ちた歴史を送ってきました。
16世紀以降、北欧諸国はサーミ人の土地を支配し始め、サーミ人を異民族だとして分断と迫害を繰り返してきました。
19世紀に北欧諸国と和解したあとも、同化政策が進められました。
学校ではサーミ語を使うことを禁じられ、精霊信仰からキリスト教への改宗、サーミの伝統的な唱歌であるヨイクの禁止など、サーミ人への差別的迫害は近年まで続いていました。
特にサーミ語の禁止は、現代のサーミ語話者減少の原因ともなりました。
現在では、そういった歴史的な反省から、サーミ人の権利を保障するため、福祉の改善や保護、教育の政策がとりおこなわれています。
サーミ人の言語や文化を学校で教えたり、ノルウェーでは「サーミウィーク」が開かれサーミ人の文化を紹介したりして、サーミ人の文化を保護しています。
北欧三国ではサーミ評議会が開かれるなどして、サーミ人の権利回復のための取り組みが進められています。
サーミ人の民族衣装の特徴
サーミ人の伝統的な民族衣装は、フェルトでできた青と赤の鮮やかなカラーが特徴的です。
ココがポイント
赤は太陽を、青は月を表現しています。
この民族衣装はコルト(ノルウェー語ではコフテ)といい、女性の手で織られています。
防寒性のあるフェルトで作られた色鮮やかな衣装は、雪の上だとよりいっそう鮮やかに美しく映えますね。
女性のコルトは青いプリーツの入ったワンピースで、襟や袖、裾に赤い刺繍テープで装飾が施された可愛らしい衣装です。
男性のコルトは女性と同じ色と装飾が施されたシャツに、トナカイの皮でできたパンツを合わせます。
コルトの模様にはアイヌの衣装に見られる紋様に似たものもあります。
コルトは、地域ごとにフェルトの色や飾り、帽子の形が異なります。
靴はヌツッカートといい、トナカイの皮を使って作られた暖かい靴です。
尖ったつま先がくるんと上を向いている、独特の形をしています。
By Birit Schenk (<a href=”//commons.wikimedia.org/wiki/User:Birit” title=”User:Birit”>Birit</a>) – <span class=”int-own-work” lang=”en”>Own work</span>, CC BY 2.5, Link
トナカイはサーミ人の手工芸品にも用いられています。
手工芸全般をドウジ、またはドゥオジと呼びます。
男性が作る手工芸品のドウジは、トナカイの皮でできたバッグや、ツノや骨で作るナイフのさや、アクセサリーなどがあります。ナイフには象形文字のような、独特の模様が彫られています。
photo: Digitalmuseum / Nordiska museet
ククサという木工芸品は、白樺のこぶをくりぬいて作ったマグカップです。
非常に丈夫で、何世代にもわたって使い続けられているものもあります。「贈られた人は幸せになる」との言い伝えから、プレゼントとしても人気です。
女性が作る手工芸品は、木の根や布など柔らかい素材からできています。
なかでもドゥウォッチと呼ばれるトナカイの皮と錫でできたブレスレットは、現代のファッションとしても人気が出ています。
メモ
バッグやアクセサリーなど、サーミの手工芸品をあつめたウィンターマーケットが、年に1回スウェーデンのヨックモックで開催されています。
400年以上開催され続けているこのマーケットには、北欧各地に住むサーミ人があつまり、手工芸品やトナカイ肉の伝統料理など、サーミ人の文化に触れる貴重な機会となっています。
ヨックモックのウィンターマーケットは毎年2月に約1週間の期間で開催されています。
約200メートルの大通りに400店以上の露店が並ぶ一大イベントです。工芸品などのショッピングや、トナカイ料理を楽しめます。
2月にスウェーデンを訪れることがあれば、ヨックモックまで足を伸ばしてサーミ人の文化に触れてみてはいかがでしょうか。
サーミ人の生活文化・食べ物は?
トナカイを遊牧するほか、釣りや採集、狩猟など、自然のなかで生きてきました。
コタと呼ばれる移動式住居に住み、季節ごとに移動しながら暮らしています。
移動手段は現代ではスノーモービルを使うことも多いですが、古来の犬ぞり文化も残っています。
サーミ人すべてがトナカイ遊牧をしているわけではありません。
森林でトナカイを飼育して暮らすサーミ人や、海岸で漁業をするサーミ人、湖に住むサーミ人などがいます。
サーミ人の文化を特徴づけるのが、伝統唱歌であるヨイクです。
さらに詳しく
ディズニー長編アニメ映画「アナと雪の女王」のオープニングで流れる「ナーナーナーヘイヤーナー♪」という神秘的な曲は、ヨイクをモデルにしていますよ。
サーミ人はシャーマニズムにも似た精霊信仰を持っています。
ヨイクは、自然とつながるためのものとしてサーミ人のあいだで受け継がれてきました。
サーミ人の主食はトナカイ、魚、ジビエなどです。
ほかにもマッシュポテトや、きのこのスープなど、サーミ料理には北欧の自然のめぐみがふんだんに盛り込まれています。
ベリーはジャムやお茶、ケーキにするなど、おいしいデザートとして愛用されています。
まとめ
自然とともに生き、自然を愛するサーミ人は、身につける衣服や装飾品、日用品、食事まで、北欧の自然を大切に活かしています。
決して多くは望まず、暮らしに必要な分だけを作り、自然と共存しています。
サーミ人は、北部の先住民族という共通点から、アイヌ民族とも交流を持っています。
北欧の文化や歴史に目を向けるなら、少数民族について知ることも欠かせません。
サーミ人は、差別と迫害という苦しい歴史を生き抜きながらも、その生活と文化を大切に守り抜いてきました。
現代では、会社員や公務員として生活しているサーミ人もいて、北欧諸国から権利保障を受けながら現代社会と共存しています。
海外旅行
\飛行機代・ホテル代を安く抑えるならエクスペディアがお得/
こちらもCHECK
-
アナ雪にも登場!北欧の妖精「トロール」とは
キリスト教が生まれる前の時代から伝承されている北欧神話。この神話には、実に様々な架空の生き物や妖精が登場し、中でも有名なのは「トロール」です。北欧をはじめ日本でもトロールをモチーフにしたキャラクターが多く存在します。今回は、そんな北欧のトロールについて詳しく見ていきましょう。
続きを見る
-
デザインがステキすぎるフィンランドの民族衣装!特徴と歴史
日本の着物のように、世界には多種多様な民族衣装があります。民族衣装には、その国の文化背景や伝統などが色濃く反映され、民族のアイデンティティを示すものでもあるでしょう。
続きを見る