近年、フィンランドでの教育が世界で注目を浴びています。
学費無料や、生徒の個性を重んじる教育として有名ですが、実際にどのような制度や特徴があるのでしょうか。
フィンランド教育が世界的に注目を集める理由
フィンランド教育が世界的に注目を集める原因は、PISAで上位を取得し続けていることにあります。
PISAとは、15歳の児童に対して行われている国際的な学習到達度調査です。
OECD(経済協力開発機構)の加盟国ならびに非加盟国の計32か国で、2000年より実施されています。
科目は読解力、数学リテラシー、科学リテラシーの3項目。
2000年の調査では読解力1位をはじめ他の科目でも首位を獲得。
科学リテラシーの科目では2003年と2006年に1位を獲得しています。
調査が開始されて以降、高順位を維持しているフィンランドの教育が世界で注目されています。
1970年代より教育改革を推し進めてきたフィンランド
今でこそ高い平均学力を維持しているフィンランドですが、1960年代には国内の子どもたちの学力低下が問題となっていました。
この問題を受けフィンランドでは、1970年代ごろより教育への投資を拡大しました。
また、1994年に教育大臣として就任したオリベッカ・ヘイノネン氏によって先進的な教育改革を実施。
教科書の検定廃止や教師への裁量権、教員資格としての修士号取得など、現在の教育制度の基礎を築きました。
その後も何度も改革を繰り返し、教育制度を進化させ教育の質を高めていったのです。
フィンランドの教育制度
では、フィンランドでは実際にどのような教育制度がとられているのでしょうか。
プレスクール
フィンランドの子どもは6歳になると、プレスクールに入学します。
先生の言うことを傾聴する訓練をして、小学校入学のための準備をします。
学習も行われますが、机上の教育ではなく体験を重視した教育が行われます。
遊びやゲームを通じて数字や母国語に触れながら、勉強したいことや興味を持てるものを探すことができます。
義務教育(基礎教育)
フィンランドの子どもは7歳になると義務教育課程に進みます。
義務教育を行う学校は「総合学校」や「基礎学校」という名称で呼ばれることもあります。
学習期間は日本と同じ9年間です。
基本的には小学校・中学校と分かれておらず、一貫で教育が行われますが、1〜6学年と7〜9学年で校舎を分けている学校もあります。
高等学校
総合学校を卒業すると、大学進学を希望する学生は高等学校へ入学します。
学習期間は2〜4年と、個人によって違います。
日本のようなクラス制ではなく単位制を採用しており、早ければ2年で卒業することが可能だからです。
日本で行われるような大学入試はありませんが、高校卒業時に卒業資格試験としての全国統一テストを受けます。
国語、第二公用語、外国語、数学のなかから3つ、一般教養のなかから1つ、計4科目が受験必須科目として定められており、この全国統一テストの結果が大学の合否判定に用いられます。
職業高校
フィンランド社会では、就業する際に資格の有無が非常に重視されます。
義務教育を終えた後、働くための実践的なスキルや資格を身につけることを希望する学生は、職業高校に進みます。
学校や企業で職業訓練を受けながら能力を評価され、「職業資格」「上級職業資格」「専門職業資格」という3段階の資格を取得できます。
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大学
フィンランドの大学では学部の学位として学士と修士がセットになっています。
学士課程で3年間、修士課程で2年間。大学院では博士課程を取得します。
より実践的な学習をしたければ「応用科学大学(ポリテクニック)」に進みます。
実習期間を含めて3年〜4年半ほど学び、経営学や情報技術、ソーシャルサービス、保育などの学位を取得できます。
フィンランド教育の特徴
フィンランド教育を特徴づけているのは独自の制度だけではありません。
高い教育水準を維持するためには、理念を強く掲げ、方針を決定する必要があります。
実際に、フィンランドではどのような理念のもと教育を行っているのでしょうか。
1つずつ解説します。
平等を重んじる教育
フィンランド教育では「平等」を重んじています。
家庭の経済状況に関わらず教育が受けられるよう、学費はプレスクールから大学まで一貫して無料です。
「落ちこぼれを作らない」という方針をとっているフィンランドでは、定期的に学力調査を実施し、学力格差が生じていないか調査しています。
補習や学習支援員制度を充実させていることも、フィンランドの平均学力が高いとされる要因の1つとなっています。
前述の通り、基礎学校は9年で卒業しますが、学び足りないと感じればもう1年在籍し勉強を続けることができます。
特別支援が必要な児童や、マイノリティ言語を用いる児童にも教育の機会が確保されており、平等を重んじるフィンランド教育ならではの方針がとられています。
個を尊重する教育
フィンランドでは個性を尊重し、伸ばす教育が行われています。
学習評価は日々の行動や能力、面談の記録、テストの成績などをもとに記録されます。
個人内で行う絶対評価で成績がつけられ、順位づけで相対評価をすることはありません。
教師の質が高い
フィンランドでは教員になるためには修士号の取得が必須です。
基礎学校の1〜6学年の担任には教育学を専門としている教師が就任します。
7〜9学年には修士号を持つ教師がそれぞれの教科を担当し、生徒は専門性の高い教育を受けることができます。
また、教師に非常に大きな裁量が与えられているのも特徴的。
教育課程基準で定められた目標に到達する必要はあるものの、どの教科書を使うかや、どんな授業を行うかといったことは教師自身で決めることができます。
教師はフィンランドでは人気の職業で、非常に高い倍率から選び抜かれた人材が教職に就いています。
フィンランド教育の問題点
上述の通り、フィンランドの教育制度は素晴らしく、学生一人一人が大切にされている教育が行われています。
ですが、デメリットがないわけではありません。
競争意識が育たないことによるデメリット
過度な競争は子どもにとって負担になります。
そのためフィンランド教育では成績は個人内評価の方式をとっています。
しかし、子供の競争意識が育ちづらい傾向にあります。
適度なプレッシャーや競争意識があるほうが学習意欲が湧く、という生徒は物足りなさを感じることもあるでしょう。
また、落ちこぼれを作らないという方針の教育では、平均学力は上がりますが突出した天才は生まれづらいという側面もあります。
体育の授業における課題
フィンランドでの体育の授業は、小学校低学年のあいだは遊びの延長線上のような内容で行われます。
順位づけや過酷な運動がない分、体を動かすことをのびのびと楽しむことができますが、それで皆が基礎体力をつけられるわけではありません。
学校で行う以上の運動能力育成は各家庭に委ねられており、経済力など家庭環境の差が子どもの運動能力の差として現れてしまうのも事実です。
教育リソースの限界
フィンランドの教育は「個を重んじる」という方針ですが、完璧に行われているわけではありません。
現場の教師だけで対応しきれないこともありますし、教育に関する予算が減り、人手不足になっているという現状があります。
個を重んじる教育を実現するだけのリソースを確保することが、今後のフィンランド教育の課題といえるでしょう。
フィンランド教育と日本の教育との違い
ここまで、フィンランド教育の制度や特徴について解説しました。
学費無料
前述の通り、教育の平等を理念に掲げるフィンランドでは、家庭の経済状況で教育の機会に格差が生まれないよう、学費無料の制度をとっています。
プレスクールから大学院までの学費は無料で、成人学習のみ有料となっています。
教材費・通学費は基礎教育まで無料で、給食費は高校まで無料です。
クロスカリキュラム
日本では各教科ごとに授業が行われますが、フィンランドはクロスカリキュラムを重視しています。
クロスカリキュラムとは複数の教科を横断した学習のことで、多面的な視点を持つことを目的としています。
例えば算数と地理をコラボレーションさせて、以下のような課題を教科書に載せています。
フィンランドの主要都市の地図とそれらの都市間の道路距離が表で示されており、ある都市からある都市を経由して別の都市まで行くのに車で何キロメートル走るかという課題
(引用元:北海道大学 高等教育推進機構 高等教育研究部門 フィンランドの教育における知識獲得プロセスに関する考察)
「留年」に抵抗がない
日本では、留年というものに対してネガティブなイメージがあったり、避けるべきものとして考えられがちです。
フィンランドでは留年に対してそのようなネガティブイメージはありません。
基礎学校で学び足りないと感じれば1年在籍を延長することができます。
1年延長して学んだあとは、職業高校の場合は1年飛び級できますし、高校は単位制のため早ければ2年で卒業できますので、留年が不利になることはありません。
基礎学校も、基本的には7歳から入学しますが、正当な理由があれば入学を早めたり遅らせることができます。
フィンランドでは、学年と年齢というものに対する考え方が柔軟であるといえるでしょう。
問題解決能力を養う教育
日本での教育は教師が生徒に知識を与え、正解を教える教育がとられていますが、フィンランドでは問題解決能力を養うことを重視します。
生徒が主体となって問題解決や知識習得のためのアプローチを考え、教師はそれをサポートするという立場です。
授業時間が短い
フィンランドの年間授業日数は約190日。
日本と比べると40日ほど少なく、経済協力開発機構(OECD)加盟国のなかでも最も少ない授業日数です。
夏休みは6月〜8月の2ヶ月と長く、生徒はオンオフのメリハリをつけて学ぶことができます。
まとめ
国際的にも高い水準を誇るフィンランドの教育について解説しました。
日本でもフィンランドのように、教育機会の平等をはかり、個性を重んじ一人一人にあった教育を提供するために何ができるのか、充分に検討し、議論を重ねていく必要があるでしょう。
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